東京大学 前先生に伺う、省エネ住宅への取り組み―最終回 住宅こそグリーン転換の主役 暖かく涼しく電気代の心配なく暮らせる社会は住宅産業が実現できる―(住宅あんしんニュースNo.264より)

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東京大学 前先生に伺う、省エネ住宅への取り組み―最終回 住宅こそグリーン転換の主役 暖かく涼しく電気代の心配なく暮らせる社会は住宅産業が実現できる―(住宅あんしんニュースNo.264より)

 「省エネ制度改正 緊急企画!」と題して、東京大学 前先生による「省エネ住宅への取り組み」を3回にわたってお届けしてきました。いよいよ最終回です。

1.夏の節電は序の口 本当に危ないのは次の冬

 エネルギー価格の高騰、そして夏の猛暑による電力需給のひっ迫を受けて、政府は、「節電ポイント」なる対策を発表しました。昨年より電力消費を減らした家に2000円相当のポイントを提供するそうですが、結局は日本伝統の「ガマンの省エネ」にわざわざ血税を流し込む、その場しのぎの感が否めません。なにより、冷房の節約をむやみに吹聴することは、国民の健康・快適な暮らしを損なってしまいます。
 そして本当に心配なのは、今度の冬。ウクライナ侵攻で大混乱のヨーロッパは、冬に必要な大量の暖房燃料確保に血眼です。国際的なエネルギー獲得競争の激化が、日本に大きな影響を与えることは避けられません。

2.遅すぎた省エネ義務化と断熱上位基準の設定

 住宅の新築着工数は図1に示すように、高度成長期に急増し、四半世紀の間は1万戸前後で推移した後、バブル経済崩壊後はずっと減少傾向が続き、2021年度は85万戸とほぼ半減しました。耐震性能については1950年の建築基準法制定以来、必ず守らなければならない「適合義務化」が実施されたため、住宅ストックの大半で最低限の耐震性能が確保されました。一方の省エネ性能は、1980年に断熱等級2が設定されたものの、温暖地では単板ガラス&アルミサッシの窓でOKという低レベル。しかも守らなくても建ててよい「任意基準」とされたため、最小限の断熱性能である等級4は、住宅ストックのたった1割にしか普及していません。ようやく今年になって断熱の上位等級5・6・7が新設され、2025年度からは等級4の適合義務化が決定されましたが、遅きに失したとしか言いようがありません。

3.新築には最大限の性能 既存改修も重要に

 遅くとも2000年の時点で有効な対策を打てていれば、今日の住宅ストックの半分は十分な省エネ性能を確保できていました。そのチャンスをみすみす見逃し、「サボり抜いてきた」住宅産業と所管行政庁の不作為のツケが今、国民を暑さ・寒さと電気代暴騰のリスクにさらしているのです。この事実を猛省し、今すぐ最大限の努力をはじめないのであれば、住宅産業に存在意義などありえません。
 今建てる新築は、2050年はもちろん、おそらく2100年にもきっと誰かが住んでいます。深刻化するエネルギー事情はもちろん、激化する気候や自然災害も予想して、最大限の備えを確保する必要があります。ただし新築は建材価格や労賃の高騰もあって、さらなる減少は不可避。既存改修も大いに進めなければなりません。

4.新築・改修いずれも3点セットは不可欠

 夏涼しく冬暖かく、そして電気代の心配もない暮らしを実現する。そのためには、新築・改修とも、断熱気密・高効率設備・太陽光発電の3点セットが絶対に欠かせません。ゼロエネルギーハウス(ZEH)でも必須の3点セットですが、その採用に消極的な住宅業者が未だに少なくありません。日本が得意だったエアコンや給湯機など設備の高効率化は頭打ちで今後は期待薄。断熱気密は長年「日本の気候には合わない」と散々反対されてきましたが、構法や建材が改良され、また恩恵が住まい手に知られるようになり、やっと普及が始まりました。
 残る太陽光発電については、「雨が漏る」とか「製造や廃棄に問題がある」とか、未だに反対意見が飛び交っています。その多くは、ほとんど存在しない、または容易に解決可能な問題を針小棒大に触れ回るもので、なにより生活に十分な電気を賄い電気代の負担を大幅に減らせる太陽光発電のメリットを完全に無視した暴論です。これ以上、「サボる理由探し」を続けて、住宅産業にとって何の得があるのでしょうか。

5.住宅産業のヤル気こそ国民生活をよくできる

 最近の国の動きを見ていると、グリーン成長・GXの美名の元での一部大企業への利益誘導、つまり明治以来の「富国強兵」にはじまる産業育成がもっぱらで、国民の生活は二の次とされているように思えてなりません。地域住民の生活を守る地方自治体の取り組みが最近注目されていますが、本来は「生活の器」を直接届ける住宅産業こそ、国民の健康改善・幸福度向上、社会の脱炭素化を実現する主役となるべきです。その役割を果たすために必要な技術も制度も、すでに十分に準備されています。後、必要なのは、住宅産業の「やる気」のみ。その実力を存分に発揮して、住宅産業が国民の期待に応え、今後ますます発展していくことを祈ってやみません。

日本のどこでも誰もが健康・快適に暮らせるために 後必要なのは住宅産業のヤル気だけ!


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