住宅事業者が提案に取り入れるべき「住まいを長持ちさせる方法」とは?―第8回 適切なメンテナンス工事を実施するには (1)基礎・外壁まわり

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住宅事業者が提案に取り入れるべき「住まいを長持ちさせる方法」とは?―第8回 適切なメンテナンス工事を実施するには (1)基礎・外壁まわり

 住宅あんしん保証は、新築住宅に関する雨水の浸入による被害(以下「雨漏り事故」)を未然に防ぐため、かねてより届出・登録事業者の方に向けて雨漏り事故の傾向や雨漏り事故を防止するための情報提供に取り組んでいます(そのひとつが、連載「目指せ、雨漏り事故ゼロへの道‼」)。
 近年は、既存住宅、具体的には新築から10年を超えるような戸建住宅に関して、住宅の所有者または買主が安心して、長く住み続けていただくための情報提供にも力を入れています。
 この連載では、これらの取組みの一環としてだけではなく、住宅事業者が自社のリフォーム工事の受注につなげていくために住宅の所有者である顧客への提案に取り入れるべき『住まいを長持ちさせる方法』を、住宅の点検やメンテナンス工事、保証サービス等を通じてご紹介します。

1.適切なメンテナンス計画の提案が必要

 これまで、木造戸建住宅の建物外部および建物内部の点検部位ごとに、構造と防水に関する具体的な点検内容と確認が求められる劣化事象等について、みてきました。
 いずれの部位においても、定期的な点検や適切なメンテナンスは欠かせません。特に「見えない、見えにくい、見落としがち」だからこそ、「定期点検」による早期発見と対策がより重要と言えるのではないでしょうか。
 そして、点検の結果、緊急性の高い不具合は見つからなくても、その後の経年劣化による雨漏り等の重大な不具合を未然に防ぐためには、適切なメンテナンスが必要です。
 戸建住宅の場合、分譲マンションと比べると、メンテナンスの準備が消極的になりやすい傾向があります。 マンションでは購入後にも共用部分に関する管理費や修繕積立金などがあるのに対して、戸建住宅の場合は、住宅の所有者が自らメンテナンス計画を立てなければ、メンテナンスとその費用について考える機会がないからです。
 そこで、住宅事業者の皆様は住宅の所有者が長く安心して住み続けられるためにも「住まいにとっての頼れる“見守り役”」として、「定期点検」の結果を基にメンテナンス計画と必要な費用について、住宅の所有者ごとへの提案が必要になってきます。今すぐのリフォームを予定していない場合でも将来的に発生するメンテナンスとその費用の「イメージ」を持ってもらうことが大切です。
 今回からは「定期点検」の結果、著しい劣化事象等が確認された場合に、早期実施が必要なメンテナンスについて取り上げ、新築から10年を超える木造戸建住宅の代表的な劣化事象等に対する補修方法等の参考をご紹介します。

[図] 木造戸建住宅の代表的な劣化事象等が確認される点検部位

※劣化事象等の事例
 第2項で掲載する画像(事例)は、中古住宅向け売買かし保険(住宅あんしん保証の「あんしん既存住宅売買瑕疵保険」)における木造戸建住宅の現場検査において指摘対象(保険加入に際して補修などが必要な不具合)となる主な劣化事象等になります。
 築年数の古い(築25年以上)木造戸建住宅の現場検査では、約7割の物件で劣化事象等が確認され、その多くは、将来的に雨漏りなど重大な不具合の原因となる可能性があります。

2.補修方法等を選定する時のポイントや参考

2-1.原因を踏まえた補修方法等の選定が重要

 「定期点検」の結果、確認された劣化事象等に対する補修などにおいて、住宅事業者の皆様が行うメンテナンスでは、「詳細調査等による原因の特定」と「原因を踏まえた補修方法等の選定」が重要になります。
 確実な調査を行い適切な補修方法を選択できれば、工事の期間やコストに無駄が出ることを防げます。調査が中途半端で、繰り返し補修が必要になるようでは、住宅の所有者からの信頼を失いかねません。
 例えば、過去に補修した部分が再び雨漏りを起こすことがあります。雨漏りの補修で最も多いトラブルは「再発」です。一度は直したはずなのに、しばらくするとまた雨漏りが発生したといったケースです。その多くは、最初の工事で雨漏りの原因の特定ができないまま補修を進めた(応急処置で様子見、原因究明の先送り、とりあえずシーリングに頼った等)ため、全く見当違いな工事をしていることが原因によるものです。雨漏りの補修が難しい一番の理由は「実際に室内で雨水が染みてきた場所」と「その原因となる場所」が必ずしも一致しないからです。

2-2.補修方法等の技術関連資料

 では、どのような補修をすればいいのでしょうか?
 具体的な補修方法等の選定において役立つ資料として、公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターが策定し、ホームページで公開している「住宅紛争処理技術関連資料集(以下「技術関連資料」)」があります。
 住宅に不具合があった場合に、その発生原因を特定するための調査、それに応じた適切な補修方法の検討、補修工事に必要となる費用等が住宅の構造別にまとめられており、補修方法等の選定にあたっての参考になります。

2-3.基礎・外壁まわりの劣化事象等に対する補修方法

 ここでは、木造戸建住宅における基礎・外壁まわりの代表的な劣化事象等に対する補修方法について、前述の技術関連資料を参考に触れておきます。
 なお、補修方法は、最終的に劣化事象等の状況(ひび割れ幅の大きさ、進行の有無など)、想定される発生原因(構造耐力上の問題による場合か否かなど)、工事の制約などを勘案し、技術関連資料にもあるとおり、各工法ごとの適用条件を踏まえて、選定する必要があります。

2-3-1.基礎の部分的な劣化事象

 まずは基礎からです。部分的な劣化事象の場合です。
 一般的には、ひび割れ幅を目安にして、その劣化状況を判断します。0.3mm以上のひび割れの場合は、注意が必要で補修をしたほうがよいとされる「構造クラック」と呼ばれ、建物に不具合が発生している可能性が考えられます。また、ひび割れを放置して基礎コンクリートに水分が侵入してしまうと、基礎コンクリート表面の劣化や内部の鉄筋がさびてしまう可能性があります。

部分的なひび割れ

樹脂注入工法
ひび割れ部や浮き部分に樹脂(注入エポキシ樹脂)を注入し、耐力の向上と止水性を確保する工法である。

出典: 住宅紛争処理技術関連資料集 補修方法編 補修方法シート 基礎のひび割れ・欠損 樹脂注入工法 工事概要

Uカットシール材充填工法
コンクリート表面をひび割れに沿ってU字形にカットし、その溝内にシール材を充填して雨水などの浸入を防止する工法である。

出典: 住宅紛争処理技術関連資料集 補修方法編 補修方法シート 基礎のひび割れ・欠損 Uカットシール材充填工法 工事概要

シール工法

  • 躯体コンクリートやセメントモルタル層の幅が狭く、浅いひび割れの止水を図るためにひび割れに沿ってシール材を塗布する工法である。
  • 補修後の外観がそのままではよくないが、簡易的に雨水の浸入を防止する。

出典: 住宅紛争処理技術関連資料集 補修方法編 補修方法シート 基礎のひび割れ・欠損 シール工法 工事概要

2-3-2.基礎の広範囲・著しい劣化事象

 同じく基礎でも、劣化事象が広範囲・著しい場合です。
 基礎コンクリートの劣化事象で深さが20㎜以上の欠損や鉄筋が露出している状態は、かなり深刻な状態になっている場合がほとんどです。この状態はコンクリートの断面積が不足したり、鉄筋が著しくさびたりするため、早急に構造的改善を目的とした基礎補強が必要です。

コンクリートの欠損・鉄筋の露出 広範囲にわたるコンクリートの劣化

充填工法
コンクリート表面のはがれ、はく落の生じている欠損部にエポキシ樹脂モルタル(又はポリマーセメントモルタル)を充填する工法である。

出典: 住宅紛争処理技術関連資料集 補修方法編 補修方法シート 基礎のひび割れ・欠損 充填工法 工事概要

打直し工法
豆板、コールドジョイント等基礎コンクリートの欠損部分や劣化した部分をはつり取り、コンクリートを打ち直す工法である。

出典: 住宅紛争処理技術関連資料集 補修方法編 補修方法シート 基礎のひび割れ・欠損 打直し工法 工事概要

増し打ち補修
ひび割れや欠損、爆裂等で損傷し、耐力劣化した基礎に対して劣化部分を除去・補修した上で、断面寸法を増やす形でコンクリートを増し打ちし、断面修復する。

出典: 住宅紛争処理技術関連資料集 補修方法編 補修方法シート 基礎のひび割れ・欠損 増し打ち補修 工事概要

2-3-3.外壁材の部分的・軽微な劣化事象

 次は外壁材です。部分的な劣化事象の場合からみていきましょう。
 一般的に幅0.3mm未満のひび割れ(ヘアークラック)の場合は、ひとまず経過観察でも問題ないとされています。ただし、ヘアークラックでも時間の経過とともに、いずれは大きなひび割れに進行する可能性がありますので、定期的にその進行状況を確認する必要はあります。ひび割れが幅0.3mm以上にまで進行している場合は、早めに補修を行い、外壁材内部に水分が入らないようにする必要があります。

部分的ひび割れ(タイル外壁) 部分的ひび割れ(モルタル外壁)

ひび割れ改修工法(外壁部)
モルタル層のひび割れ部にU字形状の溝を設け、モルタル等(※1)を充填する工法。ひび割れからの漏水防止を目的とした工法である。
(※1)モルタル等:既存モルタルと同等か同等以上のモルタルまたはJIS A6919(建築用下地調整塗材)に適合する下地調整塗材とする。

出典: 住宅紛争処理技術関連資料集 補修方法編 補修方法シート 外壁のひび割れ・欠損 ひび割れ改修工法(外壁部) 工事概要

シール工法(外壁部)
モルタル層に発生した幅が狭く、浅いひび割れからの漏水を防止するために、ひび割れに沿ってシール材を塗布する工法である。

出典: 住宅紛争処理技術関連資料集 補修方法編 補修方法シート 外壁のひび割れ・欠損 シール工法(外壁部) 工事概要

2-3-4.外壁材の広範囲・著しい劣化事象

 広範囲・著しい劣化事象の場合です。
 「外壁材から下地材(合板、防水紙、構造材等)まで到達したひび割れ等が生じている状態」、「複数の外壁材にまたがって連続したひび割れ等が生じている状態」や「外壁材の著しい浮き」などの劣化事象が確認されたら場合は、雨水の浸入により下地材や構造部材の劣化を促進させる要因となることが想定されますので、早めに外壁材の張替えなどの補修が必要です。

外壁材の著しい浮き 下地材まで到達したひび割れ

サイディングの張替え
サイディング仕上げを全面撤去し、下地から施工する。

出典: 住宅紛争処理技術関連資料集 補修方法編 補修方法シート 外壁仕上材のはがれ、浮き サイディングの張替え 工事概要

モルタル充填工法(外壁部)
モルタル層のはがれ、剥落が発生している比較的大きな欠損部を対象に、モルタルまたはポリマーセメントモルタル等を充填する工法。

出典: 住宅紛争処理技術関連資料集 補修方法編 補修方法シート 外壁のひび割れ・欠損 モルタル充填工法(外壁部) 工事概要

モルタル塗替え
既存のモルタル層を取り除き、新たにモルタル塗りを行う。

出典: 住宅紛争処理技術関連資料集 補修方法編 補修方法シート 外壁のひび割れ・欠損 モルタル塗替え 工事概要

2-3-5.外壁取合い部からの雨漏り

 最後に、外壁取合い部からの雨漏りの場合です。
 散水調査などの実施により雨漏りの原因を特定したうえで、抜本的な防水部材の再施工が必要です。

開口部まわりからの雨漏り 軒先と壁止まり取合いからの雨漏り

サッシ回りの防水テープ、防水紙の再施工
外壁をはがし、サッシ回りの防水テープ及び防水紙等を再施工する。
または、外部建具の空気音遮断性能の向上を目的とする場合は、既存の外部建具を撤去し、遮音性能のある外部建具に交換する。

出典: 住宅紛争処理技術関連資料集 補修方法編 補修方法シート 降雨による漏水 サッシ回りの防水テープ、防水紙の再施工/遮音性能のある外部建具への交換 工事概要

軒先壁止まりの再施工
軒先と外壁の取合い部分に外壁防水紙捨て張りおよび壁止まり金物を設置し、屋根下ぶき材および捨て谷を再施工して捨て谷を伝う浸入水をといに流すようにしたのち、屋根ふき材、雨押え、外壁防水紙、外壁材の順に復旧する。

出典: 住宅紛争処理技術関連資料集 補修方法編 補修方法シート 降雨による漏水 軒先壁止まりの再施工 工事概要

庇部回りの防水テープ、水切り鉄板の再施工
外壁をはがし、防水テープおよび水切り鉄板の再施工を行う。

出典: 住宅紛争処理技術関連資料集 補修方法編 補修方法シート 降雨による漏水 庇部回りの防水テープ、水切り鉄板の再施工 工事概要

3.不適切なメンテナンス工事を原因として発生してしまった不具合事例

 ここでは、不適切なメンテナンス工事を原因として発生した不具合として、住宅あんしん保証が引き受けたリフォーム工事向けかし保険(「あんしんリフォーム工事瑕疵保険」※)における塗装工事に関する事故事例を2つ、取り上げます。
 塗装工事では、施工品質の基準として重要とされているのが「下地処理が適切に施工されているか」です。
 下地処理とは、上塗りする塗料が被塗装面等に確実に付着するように塗装下地面の汚れや古い塗膜などを落とし、ひび割れなど劣化部分を補修して平滑に整えることです。
 下地処理が適切に施工されていない場合、品質の高い塗料を使用しても仕上がりが期待どおりにならないだけではなく、施工後すぐに剥がれ、膨れ、ひび割れといった不具合が発生する可能性が高まります。

※「あんしんリフォーム工事瑕疵保険」は、住宅のリフォーム工事について、工事を請け負う工事業者が発注者に対して負う瑕疵(かし)担保責任の履行をバックアップするための保険で、工事業者が手続を行います。本連載の最終回でも改めて取り上げる予定です。

あんしんリフォーム工事瑕疵保はこちら»

【事例1】モルタル塗り外壁塗装工事/外壁塗装面下地処理不足等による塗膜の膨れ

 外壁塗装工事の下地処理において、洗浄が不十分であったことや、下塗り材を塗った後の乾燥時間がが不適切であったため、工事完了2カ月後に塗膜の膨れが発生した事故です。

外壁塗装塗膜の膨れ 外壁塗装塗膜の膨れ

【メンテナンス工事・建物概要】 【修理内容】
  • 事故発見:工事完了後2ヵ月
  • 工事内容:外壁塗装工事
  • 上記工事費用:約130万円
  • 構造/階数:木造3階建
  • 屋根材:陸屋根FRP防水
  • 外壁材:モルタル塗り
被害が確認された外壁3面(北面、北西面、東面)の再塗装を行いました。
修理費用:約120万円(2020年当時)
【事例2】金属板葺き屋根塗装工事/既塗膜ケレン作業の不備による塗装塗膜の剥離

 屋根塗装工事において、塗装施工前に塗膜脆弱部のケレン作業を行った際、過去の塗装塗膜などの脆弱部分を取り切れないまま、塗装を行ったため、トタン屋根面の各所に塗膜の浮きと剥離が発生した事故です。

屋根塗装塗膜の剥離 屋根塗装塗膜の浮きと剥離

【メンテナンス工事・建物概要】 【修理内容】
  • 事故発見:工事完了後9ヵ月
  • 工事内容:屋根塗装工事(外壁板金部含む)
  • 上記工事費用: 約125万円
  • 構造/階数:木造2階建(築49年)
  • 屋根材:金属板葺き
  • 外壁材:モルタル塗り
既設屋根塗装面(計130㎡程度)すべての塗膜を撤去した後にケレン作業および再塗装を行いました。
(工期:3週間)
修理費用:約154万円(2021年当時)

4.まとめ

 今回は、住宅に劣化事象等があった場合に、住宅事業者の皆様が、その発生原因を特定するための調査、それに応じた適切な補修方法の検討、補修工事に必要となる費用の検討を行う際に参考となる「技術関連資料集」等に触れながら、「基礎・外壁まわり」の補修方法等をみてきました。
 特に屋根や外壁など外部に発生した劣化事象等に対する補修においては雨漏りを未然に防ぐためにも、「詳細調査等による原因の特定」と「原因を踏まえた補修方法等の選定」が重要であり、確実な調査を行い適切な補修方法を選択できれば、工事の期間やコストの削減にもつながります。

 次回も引き続き、新築から10年を超える木造戸建住宅の代表的な劣化事象等に対する補修方法等の参考として、「バルコニー・屋根まわり」を取り上げます。

連載コラム 住宅事業者が提案に取り入れるべき「住まいを長持ちさせる方法」とは?
第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回

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