連載コラム「非住宅木造建築」 地域工務店が建てる非住宅木造建築とは?(第1回)

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連載コラム「非住宅木造建築」 地域工務店が建てる非住宅木造建築とは?(第1回)

 ここ数年、住宅以外の「非住宅木造建築」の普及が進んでいることを感じられる機会が多いのではないでしょうか。
 昔から、小規模な保育園などでは木造の建築物もありましたが、近年は、高層ビルから工場など、従来は鉄骨造、RC造に限定されていた建物が木造で建築されているニュースをよく見かけます。
 また、混構造ではありますが、東京オリンピックのスタジアムの屋根架構・仕上げの一部に木材が活用され、2025年の大阪万博では、観覧者が会場全体を回遊する為の高さ20mの屋外空中通路「回廊」が、長さ6kmに渡って木造で建設される計画など、象徴的な建築にも続々と木材が活用、計画されています。

Ⅰ.なぜ非住宅の木造建築が増えてきたのか

 用途・規模の拡大を続けている木造建築ですが、なぜ広まってきたのでしょうか?
 今回はその様々な理由の一部を、簡単ではありますが解説させていただければ、と思います。

 近年木造建築が住宅以外にも普及を見せている理由には、①環境意識 ②法律での促進 ③耐火認定の拡大 ④技術の進歩 ⑤税制 などが代表的な理由に挙がると思います。

①環境意識

 近年の環境意識の高まり、SDGsの普及が進む中で、木材がもともとCO2を吸収して成長した材料であること、建材を生成する際に、鉄やセメントに比べて大きくCO2の発生量を抑えることができること、伐採、植林による再生循環が可能なことなどから「環境に優しい素材」として世界中で評価されています。
 これは、建物オーナーが自身の経済・企業活動が環境に優しい選択を行っているというブランディング、広告活動に使われることも木造拡大の後押しになっています。

②法律での促進

 木造は法律でも促進されています。
 2010年に「公共建築物等木材利用促進法 (木促法)」という法律で、低層の公共建築物に関しては、木造を推進する法律が定められていました。
 それが、2021年には「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」にいわばバージョンアップされ、一般建築物にも、木造が推進されています。

③耐火構造の認定拡大

 この数年の木造建築物の普及、特に中高層建築物への普及は、耐火構造に関する認定の拡大が大きく貢献しています。 2015年に5階建て以上に必要な2時間耐火の仕様が認定されて以来、木造でも中高層建築が可能になりました。
 現在は3時間耐火認定の加工木材も開発され、11階建て以上の高層ビルも木造で建築されています。
 それまでは、いわゆる「木三共」と呼ばれる、木造三階建てアパートを想定した、1時間耐火の構造しかありませんでした。

④技術の進歩

 もちろん、法整備や認定だけではなく、技術的にも進歩しました。
 主には、接合部の技術と大断面木材製造の技術の2点です。
 特に木造の高層化には、大断面の木材が必要になると同時に、大きな断面同士を構造的につなげる接合部の技術も必要です。
 近年CLT、NLTなどの大断面木材製造の技術、またその部材に接合金物を内蔵する加工技術の進歩が、より木造建築物の高層化、大型化の可能性を拡げています。
在来工法やツーバイフォー工法などの一般構法における中層化の為の構造用金物も、かなり充実してきています。

⑤税制

 最近、「森林環境税」という税金の話がSNSでトレンド入りしました。森林環境税とは、2024(令和6)年度から国内に住所のある個人に対して課税される国税であり、市町村において、個人住民税均等割と併せて1人年額1,000円が徴収されます。その税収の全額が、国によって森林環境譲与税として「森林整備及びその促進」を目的に都道府県・市町村へ譲与される新しい税の話です。
 増税の話なので、歓迎される話ではないですが、同時に税金の使い道とされる、国内における森林整備の必要性、また整備伐採後の木材の利用促進の話も、大きく議論される話となると思われます。
 木材を一番高く売ることができるのは、構造材・内装材などの建材としての活用になることもあり、木造の推進もさらに加速すると思われます。

 以上の点が、木造が推される理由の一部と考えています。

Ⅱ.2種類の非住宅木造建築とコスト

 気になる木造建築のコストですが、他構造(鉄骨、RC造)に比べて「高い」「安い」、2つの意見をニュースなどでも見かけます。
 大手ゼネコンが木造の高層ビルを続々竣工していますが、経済ニュースで見る話題では、どれも「木造は高く、普及に向けてはコストが課題」とされています。
他方、「木造が他構造に比べて安く、事業利回りに有利」なことを売りにしている建設業者もあります。
 その理由は、一般構法か、大断面集成材による構造か、の違いになります。
大断面集成材による高層木造ビルや大規模建築は、鉄骨・RC造のラーメン構造の素材を大断面集成材に置き換えた、いわば新素材による新技術になり、まだ実績も少なく、様々な試行錯誤が行われ、どうしてもハイコストになることが否めません。
 一方、主に地域工務店が扱う一般構法による非住宅木造建築は、木造住宅で普及している技術を延長したものなので、慣れている分、比較的安く済ませやすい為、ローコストで建築を行うことができます。
 一般構法でも大断面集成材にしても木造建築の環境メリット、法律での促進によるメリットなどは共通していますが、コストや技術の面では、分けて考える必要もあります。
 また、一般構法を活用して非住宅木造を建築する場合では、住宅用建材を活用して、ローコストで高性能な建築を作ることも可能です。
 どのような用途の建築でも、とまではいえませんが、住宅で培った技術力、ノウハウ・リソースを非住宅木造建築で活用することもやりやすい市場環境にはなってきていると思われます。


連載コラム「非住宅木造建築」 地域工務店が建てる非住宅木造建築とは?
第1回 第2回 第3回


市川 宣広(いちかわ のぶひろ)氏

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