住宅事業者が提案に取り入れるべき「住まいを長持ちさせる方法」とは?―第4回 定期点検における確認ポイント 建物外部編(2)屋根まわり

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住宅事業者が提案に取り入れるべき「住まいを長持ちさせる方法」とは?―第4回 定期点検における確認ポイント 建物外部編(2)屋根まわり

 住宅あんしん保証は、新築住宅に関する雨水の浸入による被害(以下「雨漏り事故」)を未然に防ぐため、かねてより届出・登録事業者の方に向けて雨漏り事故の傾向や雨漏り事故を防止するための情報提供に取り組んでいます(そのひとつが、連載「目指せ、雨漏り事故ゼロへの道‼」)。
 近年は、既存住宅、具体的には新築から10年を超えるような戸建住宅に関して、住宅の所有者または買主が安心して、長く住み続けていただくための情報提供にも力を入れています。
 この連載では、これらの取組みの一環としてだけではなく、住宅事業者が自社のリフォーム工事の受注につなげていくために住宅の所有者である顧客への提案に取り入れるべき『住まいを⻑持ちさせる方法』を、住宅の点検やメンテナンス工事、保証サービス等を通じてご紹介します。

1.住まいの定期点検

 第3回から「定期点検」の確認ポイントなどについて、部位ごとに掘り下げています。木造戸建住宅の建物外部編の2回目となる今回は、屋根まわりについて、構造と防水に関する具体的な点検内容および確認が求められる劣化事象等の事例(※)をご紹介します。
 特に、築10年を超えた戸建住宅の「定期点検」では、頻繁に目視確認できない屋根まわりの取合いの劣化事象等の状況を確認しておくことで、メンテナンスの要否とその時期、そして補修費用の目安を把握する判断材料にもなりますので、住宅の所有者へのメンテナンス工事の提案に繋がります。

【図】構造と防水に関する点検部位

※点検内容と劣化事象等の事例
 次に掲載する内容は、中古住宅向け売買かし保険(住宅あんしん保証の「あんしん既存住宅売買瑕疵保険」)における木造戸建住宅の現場検査基準の内容と指摘対象(保険加入に際して補修などが必要な不具合)となる主な劣化事象等になります。
 築年数の古い(築25年以上)木造戸建住宅の現場検査では、約7割の物件で劣化事象等が確認され、その多くは、将来的に雨漏りの原因となる可能性があります。

2.屋根まわりの点検内容と劣化事象等の事例

 日々、技術は進歩しています。塗料や屋根材もその例外ではありません。しかし、以前と比較し、材の寿命は延びたとは言うものの、全く劣化しない材は残念ながらありません。屋根は外壁と比較して、日光に含まれている紫外線や雨風の影響を受けやすいため劣化スピードが速いなど、気候、住宅の立地条件や屋根形状、屋根材の種類などによって状態は違ってくるため、定期的に状態を把握しておく必要があります。

2-1.点検方法と結果の記録

 屋根材の劣化事象等や不具合の有無については、安全に容易に登ることができる場所や足場を組まずに目視可能な範囲を点検します。また、軒天材(バルコニーの上裏を含む)の劣化事象等や不具合の有無については、外壁の点検と合わせて、住宅の周囲から目視可能な範囲を点検します。
 なお、陸屋根ついては、バルコニーまわりの点検内容を準用します。
 勾配屋根面や通常の手段で登れない部位については、住宅周辺の条件に応じて離れた場所から双眼鏡で確認を行う場合もあります。また、外壁と下屋根の取合いなど雨漏りリスクが高い部位は、バルコニーや上階の窓から安全に目視可能な範囲を確認します。
 劣化事象等の不具合が確認された場合は、その記録として、劣化事象等ごとに番号をつけて、部位、事象の状況、範囲・程度を立面図などに記載・記録することをお勧めします。同様の劣化事象等が複数ある場合には、まとめて代表的箇所の状況を記録します。
 また、劣化事象等の記録写真は、図面記載の内容と照合できるように番号をつけた部位の遠景、中景、近景を必要に応じて組み合わせた複数枚を撮影しておきましょう。

勾配屋根面の劣化事象等を双眼鏡で確認 軒天材の劣化事象等の確認

【使用する主な道具】

  • 双眼鏡(目視困難な軒裏、屋根表面などの確認用)
  • デジタルカメラ(記録写真の撮影、ズーム機能で目視困難な上階部分や細部の確認用)
  • スケール(劣化事象等の長さや範囲などの計測用)
  • クラックスケール(ひび割れの幅の計測用)

2-2.屋根材ごとの点検内容(確認が求められる劣化事象等)

 屋根まわりの点検では、屋根材によって点検内容が異なります。ここでは、戸建住宅で多く取り入れられている化粧スレート屋根、瓦屋根と金属屋根について、そのポイントを確認します。

2-2-1.化粧スレート屋根

 化粧スレートはセメントと繊維質を混ぜて作られた素材です。薄く加工されており、軽量なのが特徴です。デザイン性にも優れていることから、戸建住宅で選択される屋根材の約7割を占めていると言われます。
 化粧スレート自体は、防水性が低いことから定期的に屋根塗装を行い塗膜によって材を保護しなければなりません。劣化が進み塗膜が剥がれてしまったり、表面にひび割れが発生したりするとその部分の屋根材は保護されず、直接ダメージを受け劣化が進行します。
 点検では色褪せや劣化、コケの発生、屋根材の反り、ひび割れや破損などの確認するポイントは多岐にわたります。また、化粧スレート屋根は、屋根材を上方に重ねながら施工していくので、頂点にある棟板金にも注意が必要です。板金が浮いたりつなぎ目が劣化していたりすると、台風の際に板金などが飛ばされてしまうこともありますので、板金取合い部の止付け釘などのゆるみ、隙間、つなぎ目のシーリング材など防水部材の劣化や板金のさびなどもあわせて確認します。

屋根葺き材の色褪せ 屋根葺き材のひび割れ 勾配屋根隅棟部板金重ね部の隙間 棟部板金のさび

2-2-2.瓦屋根

 瓦は粘土を焼き固めた素材で、古くから日本の建物に使われている屋根材です。近年の都市型住宅などでは使われることは少ないですが、メンテナンスをしっかり行えば50年以上でも維持できるとされています。
 瓦屋根は、瓦と瓦の隙間を漆喰で埋めて固定しているので、点検では漆喰の状態、瓦のズレや割れを確認します。また、屋根の頂点にある棟瓦はビスで固定されているので、雨風や地震の揺れなどによって浮いてしまうこともあるため、あわせて確認します。

棟瓦まわり漆喰の劣化 瓦のズレ

2-2-3.金属屋根

 金属屋根の中でも最近はガルバリウム鋼板の人気が高まっています。ガルバリウム鋼板は軽量であることや金属屋根の中ではさびに強いことなどから、新築時はもちろんリフォーム時に採用されることも増えてきています。
 点検では屋根全体の色褪せやさびなどを確認します。また、屋根の頂点にある棟板金の浮き、つなぎ目の劣化など、棟板金を留めている釘やビスの浮きやゆるみなどもあわせて確認します。

さびを伴う金属屋根の塗膜の劣化

2-3.軒天の点検内容(確認が求められる劣化事象等)

 軒天まわりの主な劣化事象等について、それぞれのポイントを確認してみましょう。

2-3-1.軒天材のひび割れ、欠損、劣化、隙間、剥離

 一般的な勾配屋根の住宅には屋根から伸びる軒(のき)が備え付けられており、それは「雨水や紫外線から外壁を守る」「火災時の延焼防止で安全性を高める」「小屋裏の換気で湿度などを調整する」など、住まいの快適さのポイントとなるだけでなく、安全性にも大きく影響する重要な部位としての役割を担っています。この軒の下面を保護しているのが軒天材になります。
 軒天材の劣化状態を放置し欠損や剥がれなどが進行した結果、部分的でも屋根内部が覗ける状態にまでになってしまうと、コウモリ、ネズミやハクビシンなどが侵入し住み着いてしまうこともあり、その生き物たちの糞尿で小屋組材や天井材などが腐食してしまったり、電気配線が噛み切られ漏電が起こるなど様々なトラブルを招いてしまいます。
 軒天材の張り替えや害獣駆除まで行うとなれば、多くの時間と費用を要します。こうしたトラブルは軒天材の劣化が進行したことで発生してしまう被害なので、定期的に外壁まわりとあわせて軒天材の状態を把握しておく必要があります。

軒天材の欠損 軒天材の劣化・隙間

2-3-2.軒天の雨染み跡など

 軒天まわりは湿気がこもりやすい部位です。その湿気などを原因とする水染み跡が確認された場合は塗膜の保護効果の低下の可能性があり、軒天材の劣化が進行しやすい傾向にあります。
 また、塗膜の保護が低下してくると、軒天付近の外壁に吹き付けられた土埃などにより、たちまち軒天まわりの美観が損なわれてしまいます。住宅あんしん保証にも住宅の所有者から「雨漏りによって軒天が黒くなってしまったのでしょうか?」という相談が寄せられることがありますが、軒天が黒ずんでしまう原因としては、雨漏り以外にも軒天材表面の湿気に汚れや土埃が付着してしまっている場合があります。
 汚れて黒くなった軒天も、定期的に塗装を行うことで塗膜保護効果が期待できるうえに、埃などの汚れが付着しにくくなるというメリットもあります。

軒天の雨染み バルコニーの上裏の雨染み

2-4.点検のポイントと注意事項など

 小屋組部材の腐朽など屋根内部にまで及ぶ不具合は、室内の雨漏りなどが確認されて初めて気づくケースが多く、発見が遅れると補修に多大な費用がかかってしまいます。住宅の所有者自らの確認や住宅事業者の皆様が行う定期的な点検では、次の事項なども参考にしてください。

  • 建物外部の目視点検で、劣化事象等(疑われるものを含む)が確認された場合は、その部分の室内側に雨染みなどの不具合がないかをあわせて確認します。
  • 双眼鏡を使用する場合には誤解を招いてトラブルにならないように点検対象である住宅以外に双眼鏡を向けないように配慮します。
  • 劣化事象が1箇所確認されれば、周辺に同様の事象が発生している可能性があるので、確認の範囲を広げます。
  • 勾配屋根の谷部分は、雨水の滞留などにより板金や屋根材が劣化しやすいです。
  • 雨樋周辺につまり等がある場合は、固定金具から雨水が浸入しやすいです。
  • 屋根に設置されたトップライト(天窓)、ドーマや軒の出の少ない軒先・ケラバなど雨漏りリスクが高い取合いは、止付けビスやシーリング材など防水部材の劣化状況等について注意します。
  • 上記雨漏りリスクが高い取合いの直下に位置する居室天井周囲に雨染みなどの不具合がないかをあわせて確認します。

3.まとめ

 定期点検における確認ポイント 建物外部編の2回目である今回は、建物外部のうち「屋根まわり」の点検内容や注意点について、具体的な劣化事象等を交えながら解説しました。
 とりわけ、築10年を超えた戸建住宅の「定期点検」では、頻繁に目視確認することが難しい屋根まわりの取合いの劣化事象等の状況は確認しておきたいものです。見えない部位だからといって定期的な点検や適切なメンテナンスを怠れば、深刻な被害につながります。「見えないからこそ」、定期点検による早期発見と対策がより重要と言えるのではないでしょうか。

 次回も引き続き、建物外部の定期点検を取り上げます。今回とは対象的に、日頃から目視確認しやすいとされる「バルコニーまわり」の点検内容について詳しくみていきます。是非、ご覧ください。

連載コラム 住宅事業者が提案に取り入れるべき「住まいを長持ちさせる方法」とは?
第1回 第2回 第3回 第4回

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