住宅事業者が提案に取り入れるべき「住まいを長持ちさせる方法」とは?―第7回 定期点検における確認ポイント 建物内部編
住宅あんしん保証は、新築住宅に関する雨水の浸入による被害(以下「雨漏り事故」)を未然に防ぐため、かねてより届出・登録事業者の方に向けて雨漏り事故の傾向や雨漏り事故を防止するための情報提供に取り組んでいます(そのひとつが、連載「目指せ、雨漏り事故ゼロへの道‼」)。
近年は、既存住宅、具体的には新築から10年を超えるような戸建住宅に関して、住宅の所有者または買主が安心して、長く住み続けていただくための情報提供にも力を入れています。
この連載では、これらの取組みの一環としてだけではなく、住宅事業者が自社のリフォーム工事の受注につなげていくために住宅の所有者である顧客への提案に取り入れるべき『住まいを長持ちさせる方法』を、住宅の点検やメンテナンス工事、保証サービス等を通じてご紹介します。
1.住まいの定期点検
「定期点検」の確認ポイントなどについて、部位ごとに分けて取り上げています。これまで、木造戸建住宅の建物外部に関する点検部位として「外壁まわり・開口部まわり」「屋根まわり」「バルコニーまわり」「基礎まわり」と4回に分けて、それぞれを詳しくみてきました。
今回は、建物内部編として建物内部の構造と防水に関する具体的な点検内容および確認が求められる劣化事象等の事例(※)をご紹介します。
特に、築10年を超えた戸建住宅の「定期点検」では、日頃から目視確認しやすい「壁・天井仕上げの状況」や「床材の状況」の確認に加えて、「小屋裏」や「床下」などの日頃確認することが難しい部位の劣化事象等の状況などにも気を配りましょう。メンテナンスの要否とその時期、そして補修費用の目安を把握する判断材料にもなりますので、住宅の所有者へのメンテナンス工事の提案に繋がります。
※点検内容と劣化事象等の事例
次に掲載する内容は、中古住宅向け売買かし保険(住宅あんしん保証の「あんしん既存住宅売買瑕疵保険」)における木造戸建住宅の現場検査基準の内容と指摘対象(保険加入に際して補修などが必要な不具合)となる主な劣化事象等になります。
築年数の古い(築25年以上)木造戸建住宅の現場検査では、約7割の物件で劣化事象等が確認され、その多くは、将来的に雨漏りの原因となる可能性があります。
2.建物内部の点検内容と劣化事象等の事例
建物内部の点検において、「壁・天井仕上げの状況」や「床材の状況」などは、屋根や外壁など建物外部とは異なり、日頃から住宅の所有者自ら目視しやすいとされています。しかし、その対象は、主に各部位の仕上げ表面のひび割れや劣化にとどまり、内部の構造体の劣化事象等や小屋裏などの雨漏り跡の確認までは困難です。
住宅事業者の皆様が行う定期的な点検では、専門家が実施する点検として「壁・天井仕上げの状況」などの確認とあわせて日頃確認ができていない「小屋裏内部」や「床下内部」の不具合や「建物の傾き」について重点的に行う必要があります。
また、年数を重ねるとドアの蝶番や鍵が壊れるなどの不具合が考えられます。玄関の鍵や窓の施錠金具の不具合は、安全性だけでなく、防犯面にも影響します。定期的に点検し、交換などの対応が必要です。
2-1.点検方法と結果の記録
建物内部の仕上げ表面の劣化状況や雨漏り跡の有無および床や壁の傾きなどについて、各部屋内部の周囲および小屋裏内部や床下内部の目視可能な範囲を点検します。
床傾斜の計測において計測範囲の床上に障害物がある場合は、住宅の所有者に可能な範囲で移動を依頼し、より正確に現在の状態を把握しましょう。
劣化事象等が確認された場合は、その記録として事象ごとに番号をつけ、部位、事象の状況、範囲・程度を平面図や基礎伏図などに記載・記録することをお勧めします。同様の劣化事象等が複数ある場合には、最も劣化している部分など代表的箇所の状況を記録します。
劣化事象等の記録写真は、図面記載の内容と照合できるように番号をつけた部位の遠景、中景、近景を必要に応じて組み合わせて複数枚を撮影しておきましょう。
【使用する主な道具】
- スケール(劣化事象等の範囲などの計測用)
- 懐中電灯(小屋裏内部および床下内部の暗い部分の確認用)
- デジタルカメラ、自撮棒(目視困難な部分の確認、ズーム機能で細部の確認用)
- 脚立(小屋裏点検口内部の確認用)
- ドライバー(小屋裏点検口の開閉用)
- デジタル水平器、レーザーレベル(床や内壁の傾斜の計測用)
2-2.確認が求められる劣化事象等
建物内部の点検における主な劣化事象等について、それぞれのポイントを確認してみましょう。
2-2-1. 内壁・天井仕上げのひび割れ、欠損、浮き、はがれなど
内壁などの仕上げとして一般的に使用されているビニルクロスの耐用年数は約7~8年といわれています。
築10年を超えた戸建住宅でリフォームが必要になる典型的な部位として、内壁などのビニルクロスがあげられます。ビニルクロスの黄ばみや色あせなどと同じ時期に浮きや継ぎ目の開きが目立ってきた場合の原因のほとんどは経年劣化によるものです。
木造住宅であれば、木の特性上「材の乾燥収縮」や「下地材の変形」が生じるほか、「幹線道路や鉄道による振動」や「台風・地震による揺れ」などによりビニルクロスに亀裂やヨレが生じることがあります。従って、ビニルクロスは比較的早いサイクルでメンテナンスが必要になります。
内壁仕上げ等の事象が下地材(合板、石こうボード、その他の下地材)まで達する著しいひび割れや欠損などが確認された場合は注意が必要で、内部の構造体への影響が考えられます。住宅の傾きや外壁のひび割れなど様々な部位に不具合が発生している可能性もあることから、原因確認と補修または改修などが必要になります。
2-2-2. 内壁・天井仕上げ面の雨漏り跡
雨漏り跡と考えられる水シミの有無について、各部屋内部(押入れやクローゼットなどを含む)の天井周辺や建物外周側に面する開口部まわりの目視可能な範囲を点検します。
なお、次に掲げる【特に注意が必要な部位】付近に障害物がある場合は、住宅の所有者に可能な範囲で移動を依頼し、より正確に現在の状態を把握しましょう。
また、ビニルクロスの浮きやはがれが確認された場合は、経年劣化の他に雨漏りを原因としている可能性も考えられます。
出窓の天井まわりや開口部下端の窓枠付近の水シミは、雨漏りではなく結露や吹込みによることが多いとされています。
【特に注意が必要な部位】
- 天窓(トップライト)の建具まわりや付近の天井
- ドーマや煙突など屋根付属物直下の天井
- ルーフバルコニーや下屋根直下の天井
- 建物外周側に設けられた押入れなどの内部
2-2-3. 床材のひび割れ、劣化、沈み
築10年を超えた戸建住宅のリフォームにおいて、内壁の仕上げとあわせメンテナンスされることが多いのが床の仕上げになります。突き板仕上げの材などの場合、扱いによってはキズやひび割れが入ることもあり、そこから湿気が入ると床材の劣化やはがれにつながることがあります。
床材の劣化状況は、全ての居室の床まわりの目視可能な範囲を点検します。また、床材のきしみや沈みとその範囲は、点検者が各所を踏み込むなどして床の表面の変形状態やきしみ音などを確認します。
床材の著しい沈みが広範囲に確認される場合は注意が必要で、床下の構造体の劣化などが考えられることから、原因確認と補修などが必要になります。
2-2-4. 床・内壁の傾斜
各居室の床や内壁の傾斜を計測することにより、「建物の傾き」を推測することができます。
床や内壁の傾斜の計測は、デジタル水平器とレーザーレベルを使用する方法があります。それぞれメリット・デメリットがありますが、一般的に住宅の点検やインスペクションなどにおける床傾斜の計測はレーザーレベルの方が正確とされています。
デジタル水平器の場合は、一般的に1m程度の長さの物が多く使用され、簡単に短時間で計測することができますが、床仕上げの部分的な凹凸を計測値に反映しやすいため、計測する人によって計測値が若干異なる場合があります。
床傾斜の計測方法についてですが、まずレーザーレベルを部屋の中心付近に置いて直行する2方向に照射します。各内壁の下部に照射されたレーザーの水平線と床との距離(高さ)を測り、図面などに記録していきます。各居室の計測ポイント間の距離と計測値から、床がどれだけ傾いているかを推測します。なお、デジタル水平器で計測する際、床仕上げが畳やカーペットの場合は、畳寄などで計測します。
床の傾きと同様に、内壁の傾斜も計測します。レーザーレベルは垂直線も照射できますので、レーザーの垂直線と内壁との距離を測り、上部・中央部・下部の計測値から、内壁がどれだけ傾いているかを推測します。
一般的に、床の傾きは1,000分の3以内であれば問題がないとされています。一方で、1,000分の6以上の傾きが確認された場合は注意が必要で、建物に構造的な問題があるかもしれません。
例えば、各居室の傾きがある方向に向かって下がっている場合は、不同沈下などで建物全体が傾いている可能性が考えられます。また、一部の居室の中央のみ下っている場合は、床下の横架材などが構造的要因によりたわんでいる可能性が考えられます。
2-2-5. 小屋(屋根)裏内部の不具合
小屋裏内部の小屋組材(梁、束、母屋等)のひび割れや欠損、屋根裏面などの雨漏り跡の有無とその範囲について、小屋裏点検口などから目視可能な範囲を点検します。住宅内に複数の小屋裏点検口や天井点検口がある場合、可能な限りすべての小屋裏空間などを確認することで、より正確に現在の状態を把握することができます。
点検においては、高さ150cm以上の脚立を利用するなどし、小屋裏点検口などから可能な限り上半身を入れ、懐中電灯で照らして広い範囲を確認します。
小屋裏内部に上半身が入らない場合、進入が困難な場合には、自撮棒にデジタルカメラなどを取付けて点検口などから差し入れ、フラッシュとズーム機能を利用して複数箇所を撮影し、その画像を確認することが考えられます。
2-2-6. 床下内部の不具合
床下内部の床組み材(大引、床根太、床束等)のひび割れや欠損、外壁などからの雨水の浸入の痕跡や設備配管からの漏水による水たまりについて、床下点検口などから目視可能(顔または上半身を床下点検口に入れる程度)な範囲を点検します。住宅内に複数の床下点検口や床下収納庫がある場合、可能な限りすべての床下空間などを確認することで、より正確に現在の状態を把握することができます。
また、基礎礎コンクリートの劣化やシロアリの痕跡など構造耐力性能に影響を及ぼす不具合にも注意して確認する必要があります。
床下内部に蟻道などシロアリの痕跡が確認された場合は、すでに建物の中にシロアリが侵入している可能性があります。木造住宅がシロアリ被害にあうと、構造体である柱や土台などの木部が食べられることで耐震性が低下してしまう危険があるので、シロアリ専門業者に調査や駆除を依頼するように住宅の所有者に促します。
2-3.点検のポイントと注意事項など
住宅の所有者自らの確認や住宅事業者の皆様が行う定期的な点検では、次の事項も参考にしてください。
- 建物外部の屋根、外壁、バルコニーに劣化事象が確認された場合、確認箇所付近の内部の壁や床との取合い、開口部まわり、直下階の天井周辺に雨漏り跡の有無を確認します。
- 建物内部に劣化事象や雨漏り跡が確認された場合、確認箇所付近の外部に外壁材のひび割れなど劣化事象の有無を確認します。
- 小屋裏内部の点検で使用する懐中電灯は、小屋裏全体を見渡せる光量 200 ルーメン以上のものをお勧めします。
- 居室の床仕上げと巾木に隙間が確認できる場合は、床に傾きやたわみが生じている可能性があります。
- 床下内部の点検では、主に北側に位置することが多い水廻り部(キッチン、浴室)周辺に注意しなければなりません。なお、床下内部の進入調査を行う場合の注意事項は次のとおりです。
- あらかじめ 平面図や基礎伏図を確認して調査経路をシミュレーションしておき、進行方向を右回り、左回りと決めておくと迷わずに点検できます。
- 床下へ潜る際には出口を見失ってしまわないよう、点検口がある場合には開けたままにして光が差しこむようにしておきます。なお、住宅の所有者などが踏み外して落下しないように、事前に声掛けしておくなどの配慮も大切です。
- 床下は狭く、ほふく前進で点検を行うため木材のささくれや床材から出ている釘などで怪我をしないように、素肌が出ないつなぎの作業服などを着用、頭にはヘルメットや帽子をかぶり防護します。
- 床下は光が入らず暗いため、懐中電灯が必要になります。ヘッドライト付きのヘルメットがあれば、両手が空いて作業しやすくなります。
- 床下の状態を記録しておくためにデジカメを用意します。ほこりや砂などが入り故障してしまう可能性があるので、透明の袋に入れるなどの防塵対策が必要です。
3.まとめ
定期点検における確認ポイント建物外部編に続き、建物内部編となる今回は、日頃から目視確認しやすい「壁・天井仕上げの状況」や「床材の状況」の確認とあわせて、日頃は確認がしずらい「小屋裏」や「床下」といった部位の点検内容や注意点について、具体的な劣化事象等を交えながら解説しました。
いずれの部位においても、定期的な点検やメンテナンスは欠かすことができないものです。漏れなく確認し、住まいのプロとして適切なアドバイスを加えることで、その後のメンテナンス工事の提案に繋げましょう。
次回からは「定期点検」の結果、劣化事象等が確認された場合に必要になってくるメンテナンスの適切な方法とその費用の目安について取り上げます。木造戸建住宅の典型的な劣化事象等に対する補修方法等の参考例などをご紹介しますので、是非、ご覧ください。
連載コラム 住宅事業者が提案に取り入れるべき「住まいを長持ちさせる方法」とは?
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