住宅事業者が提案に取り入れるべき「住まいを長持ちさせる方法」とは?―第2回 定期点検やメンテナンスの前におさえておきたい雨漏りの傾向

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住宅事業者が提案に取り入れるべき「住まいを長持ちさせる方法」とは?―第2回 定期点検やメンテナンスの前におさえておきたい雨漏りの傾向

 住宅あんしん保証は、新築住宅に関する雨水の浸入による被害(以下「雨漏り事故」)を未然に防ぐため、かねてより届出・登録事業者の方に向けて雨漏り事故の傾向や雨漏り事故を防止するための情報提供に取り組んでいます(そのひとつが、連載「目指せ、雨漏り事故ゼロへの道‼」)。
 近年は、既存住宅、具体的には新築から10年を超えるような戸建住宅に関して、住宅の所有者または買主が安心して、長く住み続けていただくための情報提供にも力を入れています。
 この連載では、これらの取組みの一環としてだけではなく、住宅事業者が自社のリフォーム工事の受注につなげていくために住宅の所有者である顧客への提案に取り入れるべき『住まいを長持ちさせる方法』を、住宅の点検やメンテナンス工事、保証サービス等を通じてご紹介します。

1.知っておきたい雨漏りの傾向

 「定期点検」や「メンテナンス」の検討の前に知っておきたい情報として、はじめに中古住宅向け売買かし保険(住宅あんしん保証の「あんしん既存住宅売買瑕疵保険」)に加入があった戸建住宅(既存戸建住宅)で、保険事故の傾向を確認します。

1-1.保険事故発生割合と雨漏り事故の部位別発生割合

 [図](左)をご覧いただくと明らかであるように、発生した保険事故の約80%は雨漏り事故です。
 さらに、保険事故の大半を占める雨漏り事故の傾向として、具体的にはどのような部位で発生しやすいのか、その発生割合を部位別にみてみると、[図](右)のように屋根、外壁、開口部、バルコニーのそれぞれからまんべんなく雨漏りが発生していることがわかります。

保険事故発生割合、雨漏り事故の部位別発生割合

1-2.既存戸建住宅の雨漏り事故発生部位の詳細

 次の[表]は、[図]の雨漏り事故の部位をより細かく分類したもので、圧倒的に「サッシまわり」からの雨漏り事故が多いことがわかります。
 「雨漏り事故の多い部分」の傾向として、①異なる部材の取合い ②複雑な納まり ③雨水が滞留しやすい納まり ④雨風に強く晒される部分が共通して確認できます。
 たとえ、上記①~④において、新築時の工事の不具合等が屋根や外壁などに含まれていたとしても、「定期点検」と「メンテナンス」を適切に実施することにより、一次防水(屋根葺き材や外壁材(シーリング材含む)等)からその内部への雨水浸入を防げるケースも多く、雨漏り事故のリスクを減らすことができます。

[表]既存戸建住宅の雨漏り事故発生部位(詳細)上位5

順位 部位 詳細 割合
開口部 サッシまわり 18.3%
外壁 下屋根壁止まり雨押え部取合い 8.3%
屋根 天窓・ドーマー等まわり 6.2%
外壁 一般平部(モルタル塗り、タイル張り等) 5.6%
屋根 一般平部(瓦葺き、スレート材葺き等) 4.7%
【その他の雨漏り事故発生部位(詳細)】
屋根パラペット笠木まわり、バルコニー排水ドレンまわり、屋根棟部(板金、瓦納まり 等)、下屋根壁止まり軒部・庇取合い、バルコニー防水層立上り・水切り等取合い等

※住宅あんしん保証調べ(調査対象は同社の「あんしん既存住宅売買瑕疵保険」契約)
:2011年5月~2023年7月に発生した既存戸建住宅の雨漏り事故(保険金支払い済)件数を基にした割合

こちらもあわせてご覧ください。
■■中古住宅のミカタ「戸建て住宅の瑕疵(かし)保険事故は95%が雨漏り!?中古住宅の売買時に雨漏りリスクを減らし備えるには」■■

2.点検やメンテナンスで防げたかもしれない雨漏りの事例

 雨漏り事故は早期発見・早期対策が重要です。不具合をそのまま放置すると状態は悪化する一方で、復旧には多大な費用がかかってしまいます。
 例えば、外壁のクラックを放置したことで長年にわたって雨水が壁内に浸入し続けた住宅では、下地材と構造躯体の腐朽がシロアリやカビの発生を招き、それらが原因で構造耐力性能の低下や人体に被害が及ぶなど、大がかりな改修工事に発展してしまいました。
 定期的に点検を行い、不具合箇所を早期に発見、補修していれば、被害の拡大を防げたかもしれません。
 ここでは、点検やメンテナンスで防げたかもしれない戸建住宅の雨漏り事故の事例を、住宅あんしん保証が引き受けた中古住宅向け売買かし保険(あんしん既存住宅売買瑕疵保険)の事故事例の中から見ていきます。

2-1. モルタル塗り外壁のクラックからの雨漏り

 下屋根が取合うモルタル塗り外壁のクラックから壁内部に浸入した雨水が、防水紙など防水部材の隙間などを通じて室内に浸入した雨漏り事故です。
 住宅の所有者が1階和室の天井と内壁に雨漏りによる水染みを発見しました。下屋根と外壁の取合いは、防水部材が不連続になるため雨漏りリスクが高いので注意が必要です。

モルタル塗り外壁のクラックからの雨漏り

【建物概要】 【修理内容】
  • 事故発見時築年数:16年
  • 構造:木造軸組造
  • 階数:2階建て
  • 屋根材:セメント瓦葺き
  • 外壁材:モルタル塗り
外壁クラックの補修および汚損した天井および内壁の現状復旧を行いました。
修理費用:約80万円(2016年当時)

2-2. バルコニー手すり壁(タイル目地)のクラックからの雨漏り

 タイル仕上げ手すり壁の目地に発生したクラックから長年にわたって雨水が浸入し続け、手すり壁とバルコニー床の下地木材の腐朽等にまで被害が拡大してしまった雨漏り事故です。
 住宅の所有者がバルコニーの一部の傾きに気づき、修理業者が軒天井を解体したところ、床下地材が腐朽していました。

タイル張り外壁目地部のクラック バルコニー床下地木材の腐朽

【建物概要】 【修理内容】
  • 事故発見時築年数:23年
  • 構造:枠組壁工法法
  • 階数:2階建て
  • 屋根材:粘土瓦葺き
  • 外壁材:磁器タイル張り
バルコニー手すり壁および床の下地躯体からの補修と防水の再施工を行いました。
修理費用:約270万円(2017年当時)

2-3. 鉄骨造ALC版外壁のクラックからの雨漏り

 鉄骨造ALC版張り外壁の住宅は、一般的に防水紙を要しない防水仕様のため、ALC版のクラックやサッシ取合い部の隙間から長年にわたって雨水が浸入し続け、広範囲に壁体内部を汚損してしまった雨漏り事故です。
 築20年を超える鉄骨造ALC版外壁は、クラックを含め外壁目地全体のシーリング補修を行っていないと、壁内部への雨水浸入、室内への雨漏りリスクが非常に高いので注意が必要です。
 特に、開口部まわりのクラックや隙間は雨漏りに直結しやすいので、ALC版の割り付けに従わない開口部まわりについては、重点的に点検が必要です。

ALC版張り外壁のクラック 長年の雨水浸入により壁体内部を汚損

【建物概要】 【修理内容】
  • 事故発見時築年数:23年
  • 構造:鉄骨造
  • 階数:2階建て
  • 屋根材:シート防水
  • 外壁材:ALC版張り
サッシ取合い部防水・外壁クラック等の補修および広範囲に汚損した天井・壁体内等の現状復旧を行いました。
修理費用:約400万円(2015年当時)

2-4. 勾配屋根隅棟部板金取合いからの雨漏り

 勾配屋根隅棟部板金の施工において、止付け釘打ち損じ部や板金重ね部の防水措置が不完全な部分があり屋根内部に雨水が浸入し、小屋裏内部と下階和室の天井に水染みが発生した雨漏り事故です。
 棟板金などの浮きや釘抜けは、築10年ほどで生じることから、屋根塗装等を行う際には板金納まり部の劣化状況等を確認し、必要に応じて補修も行っておくべきでしょう。

勾配屋根隅棟部板金重ね部の隙間 止付け釘孔拡大に伴う小屋裏内部の水染み

【建物概要】 【修理内容】
  • 事故発見時築年数:21年
  • 構造:木造軸組造
  • 階数:2階建て
  • 屋根材:スレート材葺き
  • 外壁材:サイディング張り
原因とする板金部の交換および当該部位の防水再施工を行いました。
修理費用:約130万円(2019年当時)

2-5. バルコニー排水ドレンまわりからの雨漏り

 バルコニー排水ドレンとシート防水取合いの接着不良部から長年にわたって雨水が浸入し続け、バルコニー床の下地木材の腐朽など大きな損害に発展してしまった雨漏り事故です。
 排水ドレン金物とシート防水取合いの防水措置について、隙間をコーキングのみで充填している場合は、特にその劣化状況を注意して点検しましょう。
 また、バルコニーの点検では、できる限り床に置かれた障害物を移動して目視確認することをお勧めします。

排水ドレンとシート防水取合いの接着不良 バルコニー床下地木材の腐朽

【建物概要】 【修理内容】
  • 事故発見時築年数:23年
  • 構造:木造軸組造
  • 階数:2階建て
  • 屋根材:鋼板葺き
  • 外壁材:モルタル塗り
原因とする排水ドレン防水の再施工および床下地躯体からの補修を行いました。
修理費用:約160万円(2016年当時)

3.まとめ

 このように、定期的な点検や適切なメンテナンスを怠った場合、高額な修理費用を要するような大きな被害につながります。被害やその修理費用が明らかになれば、住宅の所有者としては「だったら、前もって教えくれれば良かったのに…。知っていたら、もっと早くから予防を考えたのに…」という気持ちになるでしょう。
 これからの住宅事業者は、住宅の所有者が安心して長く住み続けることができるように、新築の契約時点から定期的な点検や適切なメンテナンスの重要性をしっかりと説明し、引渡しのそのあとも見据えた関係を構築することを前提にお客様への提案を考えていく必要があります。
 それは住宅事業者にとって、将来必ず発生するメンテナンス工事や暮らしを向上させるようなリフォーム工事の受注への第一歩とも言えるでしょう。

 次回は、部位別に具体的な点検内容や確認が求められる劣化事象の事例を交えながら、「定期点検」をさらに掘り下げます。

連載コラム 住宅事業者が提案に取り入れるべき「住まいを長持ちさせる方法」とは?
第1回 第2回 第3回 第4回

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