住宅事業者が提案に取り入れるべき「住まいを長持ちさせる方法」とは?―第5回 定期点検における確認ポイント 建物外部編(3)バルコニーまわり
住宅あんしん保証は、新築住宅に関する雨水の浸入による被害(以下「雨漏り事故」)を未然に防ぐため、かねてより届出・登録事業者の方に向けて雨漏り事故の傾向や雨漏り事故を防止するための情報提供に取り組んでいます(そのひとつが、連載「目指せ、雨漏り事故ゼロへの道‼」)。
近年は、既存住宅、具体的には新築から10年を超えるような戸建住宅に関して、住宅の所有者または買主が安心して、長く住み続けていただくための情報提供にも力を入れています。
この連載では、これらの取組みの一環としてだけではなく、住宅事業者が自社のリフォーム工事の受注につなげていくために住宅の所有者である顧客への提案に取り入れるべき『住まいを長持ちさせる方法』を、住宅の点検やメンテナンス工事、保証サービス等を通じてご紹介します。
1.住まいの定期点検
「定期点検」の確認ポイントなどについて、部位ごとに分けて取り上げています。木造戸建住宅の建物外部編―(1)外壁まわり・開口部まわり、(2)屋根まわりに続き、3回目となる今回は、バルコニーまわりについて、構造と防水に関する具体的な点検内容および確認が求められる劣化事象等の事例(※)をご紹介します。
特に、築10年を超えた戸建住宅の「定期点検」では、異なる部材や複雑な防水納まりが多いバルコニーまわりの詳細な取合いの劣化事象等の状況を確認しておくことで、メンテナンスの要否とその時期、そして補修費用の目安を把握する判断材料にもなりますので、住宅の所有者へのメンテナンス工事の提案に繋がります。
※点検内容と劣化事象等の事例
次に掲載する内容は、中古住宅向け売買かし保険(住宅あんしん保証の「あんしん既存住宅売買瑕疵保険」)における木造戸建住宅の現場検査基準の内容と指摘対象(保険加入に際して補修などが必要な不具合)となる主な劣化事象等になります。
築年数の古い(築25年以上)木造戸建住宅の現場検査では、約7割の物件で劣化事象等が確認され、その多くは、将来的に雨漏りの原因となる可能性があります。
2.バルコニーまわりの点検内容と劣化事象等の事例
バルコニーは屋根や外壁とは異なり、日頃から住宅の所有者自ら目視しやすいとされていますが、床まわりの防水層の劣化やひび割れなどの確認に注意がいきがちで、掃出しサッシの下端や排水ドレンまわりなど細部の確認まではなかなか行き届かないようです。
住宅事業者の皆様が行う定期的な点検では、床まわりの防水層とあわせて各防水取合いの劣化事象等の状況にも注意して確認する必要があります。
2-1.点検方法と結果の記録
床防水層(立上り部を含む)、排水ドレンまわり、その他防水取合いの劣化事象等や不具合の有無について、目視可能な範囲を点検します。
バルコニーの点検において床上の障害物(植木鉢など)やスノコ・敷板がある場合は、住宅の所有者に可能な範囲で移動を依頼し、その直下の防水層などを直接目視確認しておきたいものです。
劣化事象等の不具合が確認された場合は、その記録として、劣化事象等ごとに番号をつけて、部位、事象の状況、範囲・程度を平面図や立面図などに記載・記録することをお勧めします。同様の劣化事象等が複数ある場合には、まとめて代表的箇所の状況を記録します。
また、劣化事象等の記録写真は、図面記載の内容と照合できるように番号をつけた部位の遠景、中景、近景を必要に応じて組み合わせた複数枚を撮影しておきましょう。
【使用する主な道具】
- デジタルカメラ(記録写真の撮影、ズーム機能で目視困難な上階部分や細部の確認用)
- スケール(劣化事象等の長さや範囲などの計測用)
- クラックスケール(ひび割れの幅の計測用)
- 点検鏡(水切り裏側部分、サッシ取合い部、雨戸などの天端などの確認用)
2-2.確認が求められる劣化事象等
バルコニーまわりの主な劣化事象等について、それぞれのポイントを確認してみましょう。
2-2-1.掃出しサッシ下端や手すりなど防水取合いにおけるシーリング材などのひび割れ、破断、欠損、隙間
バルコニーまわりの雨漏り事故の原因で一番多い部位は、「掃出しサッシ下端」からの雨水浸入によるものです。
掃出しサッシと防水層はサッシ下枠の裏側で取合うため、バルコニー床面から跳ね返った雨水が取合い部分にあたり、その取合いの防水施工が不十分の場合は雨漏りに至るリスクが高くなります。
掃出しサッシ下端など直接目視しにくい部位は点検鏡やデジタルカメラのズーム機能を利用して、防水層のはがれやシーリング材のひび割れ、破断などの劣化状況を確認します。
また、手すり笠木と外壁の取合いや手すり笠木継手部なども雨水が滞留しやすく雨風に強く晒されることが多い部位ですので、シーリング材などのひび割れなどによる小さな隙間からでも雨水が手すり壁内部に浸入しやすく、少量の浸水でも数年もすると内部の防水紙や防水テープなどの防水部材が劣化し、室内に浸水してしまいます。
2-2-2.床防水層のひび割れ、欠損、はがれ
バルコニーFRP防水の寿命は、日々の使い方や周辺環境などにも左右されますが、一般的には10年程度になります。また、トップコート(表面保護)の塗りなおしの目安は5~10年程度ごとです。
定期的な点検では、バルコニー外壁下の立上り部分を含めた防水トップコートのふくれ、ひび割れ、はがれ、水たまりなどの劣化事象等を確認します。
防水層までふくれていたり、はがれていたりする場合や、ひび割れがある場合は基本的に防水層の再施工が必要です。
また、防水層の上に敷かれた保護コンクリート材にひび割れ等が確認された場合、防水層にも影響が考えられるため、防水層の裏側(防水層直下の天井やバルコニ-床内部など)も確認することをお勧めします。
2-2-3.排水ドレンまわりの不具合
バルコニー排水ドレンまわりの防水取合いも雨水が滞留しやすい部位になります。各取合いにおける防水部材の劣化等による小さな隙間からでも雨水がバルコニー床内部に浸入しやすく、少量でも長期間にわたる浸水により床下地材などが腐朽してしまい、リフォーム工事の時にその状況が発見される事例は少なくありません。
なお、過去に実施された排水ドレン部材とシート防水取合いのメンテナンスにおいて、劣化等による隙間などを安易にシーリング材のみで充填している場合は、特に注意してその部分の劣化状況を確認しましょう。
また、排水溝に溜まった枯れ葉などの堆積物は排水不良の原因となり、そのまま放置してしまっていると床まわりの防水層の劣化を早めてしまう恐れがあります。定期的な点検では排水溝の排水不良や排水パイプの詰まりなどもあわせて確認しましょう。
2-2-4.手すり壁などのぐらつきや床の振動など
バルコニーの手すり壁などの安全確保も重要なメンテナンスの対象になります。定期的な点検では、手すりの緩みや手すり壁のぐらつきがないかを確認します。特に、小さなお子様やペットがいる場合は、手すり壁の手前に踏み台となりそうな物を置かないなどの安全対策にも配慮しておきたいものです。
また、歩行して、通常の使用で床の支持部材(柱、梁、床根太など)に振動や違和感がないことを確認します。
次の2つの事例は、雨水の浸入により”構造安全性に影響”を及ぼしてしまった雨漏り事故になります。
排水ドレンとシート防水との取合いの接着不良が原因で、長期間にわたり、その小さな隙間から雨水がバルコニー床内部に浸入し続け、床構成部材に腐朽・耐力低下が生じ、最終的にバルコニー床の傾斜が発生した。 |
手すり壁天端において笠木金物止付けビス頭の防水措置の不備が原因で、長期間にわたり、その小さな隙間から雨水が手すり壁内部に浸入し続け、壁構成部材に腐朽・耐力低下が生じ、最終的に手すり壁のぐらつきが発生した。 |
こちらもあわせてご覧ください。
中古住宅のミカタ「中古戸建ての購入後にバルコニー崩落!「検査をパスしたのに…」構造の不具合は見抜けないの?」 »
2-3.点検のポイントと注意事項など
バルコニーの支持部材の腐朽など床や外壁内部に被害が広がってしまった劣化事象等は、支持部材の耐力低下によるぐらつきや振動、室内の雨漏りなどが確認されて初めて気づくケースが多く、発見が遅れると補修に多大な費用がかかってしまいます。住宅の所有者自らの確認や住宅事業者の皆様が行う定期的な点検では、次の事項も参考にしてください。
- 手すり壁の笠木コーナー部や外壁との取合いなどのシーリング材、床防水層の出隅や入隅部は劣化しやすいです。
- バルコニーの目視点検で、劣化事象等(疑われるものを含む)が確認された場合は、その部分の室内側または直下に位置する居室天井周囲に雨染みなどの不具合がないかをあわせて確認します。
- バルコニー内部で日があまり当たらない場所ではカビやコケが発生しているケースもあります。なお、外壁材塗膜の劣化によって外壁の防水機能が失われるとカビやコケが繁殖する可能性が高まリます。
- 排水ドレンまわりに堆積物が長期間滞留した状態は、排水不良による漏水の恐れが高くなります。排水口や雨樋の詰まりや破損もあわせて点検の対象とします。
3.まとめ
定期点検における確認ポイント 建物外部編の3回目である今回は、建物外部のうち「バルコニーまわり」の点検内容や注意点について、具体的な劣化事象等を交えながら解説しました。
とりわけ、築10年を超えた戸建住宅の「定期点検」では、床の防水層などとあわせて異なる部材や複雑な防水納まりからなる各防水取合いの劣化事象等の状況にも注意して確認しておきたいものです。
これまで3回に分けて防水に関する点検部位「外壁まわり・開口部まわり」「屋根まわり」「バルコニーまわり」について詳しくみてきました。いずれの部位においても定期的な点検や適切なメンテナンスを怠れば、深刻な被害につながります。特に「見えない、見えにくい、見落としがちだからこそ」、定期点検による早期発見と対策がより重要と言えるのではないでしょうか。
次回も引き続き、建物外部の定期点検を取り上げます。建物外部編の最後となる4回目では構造に関する点検部位で日頃から目視確認しやすいとされる「基礎まわり」などの点検内容について詳しくみていきます。是非、ご覧ください。
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